前回の続きです。
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流血男のタクシーが離れていった後、
深夜の酔客について運転手さんとの会話が弾んで
こんな話をしてみた。
「昔、呑むと頻繁にツブれる上司がいたんだけど、
その人はタクシーに乗せさえすればOKだったんですよ。
とにかく、運転手さんに、
『練馬の●●交番まで行って。後は、おまわりさんがやってくれるから』
そう言えば済んじゃう人で」
当時、行き先を告げる先輩のセリフと共に
タクシーに押し込まれる上司を初めて見た時、
最寄の交番を身元引き請けにできるなんて、
やっぱり管理職って凄いんだ・・・と、
ヘンなところに感心した覚えがある。
実際、その上司の場合は、
・交番にブツ(本人)が“納品”されると
・おまわりさんが自宅に連絡し
・やがて迎えの家族が現れ
・代引きで料金も支払われる
という、立派な自動引取りシステムが成立していた。(笑)
始末に終えないヨッパライも、
そこまで上り詰めれば見上げたものだが、
そんな事例がそうそうあるものではない。
大半は、あの流血男のように厄介な“物体”でしかないはずだ。
「この時間帯だと、さっきみたいなオジサンが多いんでしょ?」
私がそう訊くと、
そうですね。
酔っていてもお客さんの上司みたいな人ばかりなら助かるんですが、
まぁ、まずそんなことはないですから。
でも・・・。
運転手さんの言葉が続く。
私の経験では、酔客で危ないのはオジサンよりも女性ですよ。
「へぇ~、そうなんだ」
それも、年齢は二十代後半ですかね。
「若いし、あんまりピンとこないね」
そうでしょうね。
そう言って、運転手さんは実際に遭遇した珍事を披露してくれた。
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その女性は、お客さんと同じさっきの駅前から乗車したんですが、
歳は27から28ぐらいだったかなぁ。
足元が怪しいし、乗せた時からイヤな感じがしてたんですけど、
暫く走らせていると、後ろでガサガサし始めたんです。
最初、上着を脱いでいるのは分かったんです。
「気分が悪くなった?」
私も、酔って気分が悪くなってるのかと思ったんです。
そんな感じに見えましたし、
上着を脱いだ後、窓を目いっぱい開けてましたからね。
「窓を開けるって、吐く準備でしょ」
大体はそうなんですよ。吐くのかなぁって気になってきて・・・。
「どうなったの?」
でも、それが、そのうち、シャツも脱ぎ始めちゃったんですよ。
「シャツ?」
そんなに気持ち悪いのかと、いよいよ心配になったんですが・・・。
「吐いた?」
吐きはしなかったんですが・・・。
「どうしたの?」
今度は何故かスカートを脱ぎ始めたんですよ。
「エッ?」
こりゃ、ちょっと様子が違うな・・・と。
「へんだよね」
何してるんだろう?って思っているうちに・・・。
「どうしたの?」
パンストも脱いじゃって・・・。
「ありゃりゃ」
それで、ついにブラジャーも外しちゃったんですよ。
「エ~ッッ!?」
そこで、あ~ こりゃまずいことになったと・・・。
「どうしたの?」
そのまま最後までいかれたらヤバイんで、
パンツを脱がれる前になんとかしなきゃって焦りましたよ。
「本人はどんな感じ?」
酩酊してるから声を掛けても全然ダメで、
『バカヤロォォーッッ!』て何度も叫んでましたけど、
ぼやきの内容を聞く限りどうやら失恋なのか、
とにかく男絡みでイヤなことがあったんでしょうね。
「で、どうしたの?」
とにかく交番を見つけようと。
「交番に行くにしてもハダカのままじゃいけないよね」
そうなんです。
「でも、酩酊してたら服を着るのも難儀でしょ?」
いや、それが・・・。
「着れた?」
そのお客さん、脱いだ服は全部、
開けた窓から投げ捨てちゃってたんですよ。
「エ、エ~ッッ!?」
しょうがないんで、交番の近くにクルマを停めて
おまわりさんを呼んできたんですけどね。
「とりあえず一件落着したんだ」
いや、それが・・・。
「まだ何かあったの?」
後部座席のお客さんの姿を見たおまわりさんが、
『お前、いったい何をした?』 って、私に詰め寄るんですよ。
「え~っ」
そもそも、そんなことして
自分から交番に申告するヤツなんていないでしょ。
「そりゃそうだ」
お客さんは応答できる状態じゃないし、
ホント、ひどい目に遭いましたよ。
まぁ、辛うじてパンツだけは穿(は)いていてくれたから
助かりましたけどね。
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二十代後半の女性に対する見方がちょっと変わった気もする、
草薙クンの女版エピソードを聞いて大笑い。
-----さらに続く-----
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