呑んで帰る途中で寝過ごしてしまい、五つ先の駅で目が覚めた。
幸いなことに、時間的には途中駅まで戻れて
そこからタクシーで帰ったのだが
乗車したタクシーの運転手さんの話が最高に面白かった。
今回はその前段。
実は、乗車待ちの列に並ぶ際、
バスレーンを挟んだ反対側の歩道を私と並行して歩く酔客がいた。
仲間の男性に介抱され、
引きずられるように歩くサラリーマンとおぼしき男性が
大声を張り上げている。
声が聞こえて存在を認識したのだが、
やりとりの内容が尋常じゃない。
転倒、或いは、どこかにぶつかったのか、
顔面を切ってかなり流血しているようだ。
『ほら、顔から血が流れてるんだからな。分ってるのか?
危ないって。しっかりしろ』
随分と物騒な声が聞こえてくる。
が、
本人は酔っ払っているので痛くも痒くも無いのだろう。
それどころかキモチも大きくなっていて、
「うるせぇ。俺を誰だと思ってるんだ!うおぉぉぉ~っっ!!」
と、完全に酩酊状態です。
介抱している人間の方がタイヘンだよなぁと同情しつつ、
彼らから目線を切って列の最後尾に並んだ。
すると、後ろから大声が近づいてくるではないですか。
件(くだん)の酔客です。
二人は私の後ろに付いてしまいました。
あちゃ~。
こんなヤツに絡まれたらイヤだなぁ・・・、
が、
恐いもの見たさで視線を向けると、マジに何箇所か出血しており、
特に額からの流血量は半端じゃない。
・血が出てるんだぞ
・顔が切れてるのは分ってるのか
・しっかりしろよ
・タクシーに乗せるからな、ちゃんと行き先を言えよ
介助の男性が言いきかせるように言葉を掛け続けるが、
流血男は相変わらず、
「うるせぇ、バカヤロー! うおぉぉぉ~っっ!!」の連呼です。
介抱していた男性も流石に最後は完全にキレていた。
私の乗車順が来てタクシーに乗り込むと
運転手さんが即座に言葉を発してきた。
あ~良かった。
お客さんを選べないから、くじ引きみたいなものなんですよ。
後ろのお客さんが当たらなくて本当に良かったですよ。
安堵感が溢れていた。
よく分かる。
私もグダグダになっているヤツをタクシーに押し込んだことが何度かある。
「とにかく王子のほう」と、方角だけ伝えて
無理矢理発車させたことがあったのを思い出した。(笑)
そんな時、必ず目にするのは、
「えっ!? 一緒に乗ってくれないんですか?」
とでも言いたげに、
コチラを悲しそうに見つめる運転手の眼差しだ。
後ろのタクシーに乗せられるであろう流血男は
正にそういう状態にある。
私を乗せた運転手さんは、この駅に戻る前の乗客が酔客で
結局、交番に預けてきたそうで、
危うく大はずれのクジを一晩の内に連続で二本引くところだったらしい。
そりゃ、外れて良かったですね。
などと会話をしているうちに、信号待ちで停車。
すると、運転手さんが
ほら、横についたタクシー。
あれ、後ろに並んでいたお客さんですよ。
と、教えてくれた。
目をやると、流血男はドアを開けようとして車内で暴れていた。
黒いコートを着ているせいもあり、
まるで檻(おり)から脱出しようとするゴリラのよう。
きっと車内でも「俺を誰だと思ってるんだ!うおぉぉぉ~っっ!!」って
叫び続けているんだろう。
運転手さんは隣のタクシーに目をやり、
隣は同じ会社のタクシーなんですよ。
しかも、あいつは新入社員なんだよなぁ。
可哀想に・・・。
運転手さんが言うように、隣の新入りの運転手さんは
物凄く不安げな表情で後部座席をチラチラ見ていた。
その交差点で行き先が分かれたが、
進行方向だって怪しいものだろう。
あの後、流血男は間違いなく交番に納品されたと思う。
-----ここまで前段-----
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