少し歯が浮く感じだったのだが、それに近い感覚は過去にもあったので特に気に留めて
いなかった。少し違っていたのは痛みのレベル。ちょっと嫌な雰囲気がある。その日は
食べ物を前歯で噛まないようにして過ごしたが、夜になっていつもとは状態が違うことが
ハッキリした。
カミサンと喧嘩して声を張り上げている時、微妙に歯がずり落ちてくる感じがするのだ。
気になってもはや喧嘩どころではなくなった。敵に悟られないように言葉数を減らす。
ここで歯がずれてきたら滑舌がおかしくなり、口撃に迫力を欠いた挙句、大笑いされて
“惨めな敗戦”を迎えることになってしまう。舌で歯を押さえることに必死になった。(笑)
まぁ、そんなことはどうでもよい。事実はひとつ。25年間、四半世紀を共にした相棒が
あの日、終焉を迎えたのである。
私の上の歯は正面の四本が差し歯。今の歯になってから25年が経過したが、その前に
切っ掛けとなったことがあって、それは中学三年生の時まで遡る。ちょうど卒業式の
一週間前、サッカーでジャンピングヘッドをした際、競り合った相手と空中で激突した。
相手の額に私の口が当たったその瞬間、まず真ん中の一本が宙に飛んだ。倒れ込んで
ぼーっとした意識の中、口元を押えた手を見ると血だらけになっている。あれっ?と
思って歯に指を添えると、何もせずもう一本の歯もスッと抜けた。あの時はビックリした
というよりも、いったい自分に何が起こったのか分らなかった。(笑)
学校の目の前の歯科医院で急遽治療。幸運にも抜けた歯に損傷がなく、そのまま差して
残すことになった。麻酔を何箇所も打たれ長時間の治療になったが、何とか無事に終了
した。その後、熱をもったことで口元が異常に腫れ上がり、結局、卒業式はマスクを
したまま出席したっけ。(笑)
医師から「五年くらいはもちます」と言われたが、運良く長続きした。
そして九年後、結婚した年のXmas・・・。
(骨が付いていると知らずに)フライドチキンを食べていて『パキッ!』という音が聴こえた
ように感じた。直後、真ん中の二本の歯の間からスーっと血が滲んできた。
・・・the end.そして治療となった。
①と②の欠損修復の為に③と④にブリッヂ補強をするので、都合四本の差し歯が必要に
なる。保険がきかないので治療費は高額になります。当時8万5千円×4本=34万円を
お支払いしました。
その差し歯と一緒に25年間暮らしてきた。考えてみれば15歳の時の治療以来、硬い
ものは直接前歯で噛まないように気をつけていた。リンゴの丸かじりの感触など34年も
味わっていないのだ。(笑) だからこそ、ここまでよくもったのかもしれない。
そして先日、25年前に治療してもらった歯科医に行った。結局、いつの時点でそう
なったのか不明だが、ブリッヂ元の③が中で折れているとのこと。噛まないように気を
付けても口内で咀嚼する内にどうしても当たってしまう。その蓄積で折れたのだろう。
で、今度は写真の⑤と⑥の歯にブリッヂを渡して6本の差し歯にすることになった。
少し大掛かりな治療になるみたいですね。
一般的に歯科治療は恐がる人が多く、歯科医は治療中よく「恐くありませんよ~」と言う。
基本的にM体質で、もともと歯科治療が好きな方だし(笑)、25年前と先生も変わって
おらず私は安心しているのだが、都度「大丈夫ですか?」と声掛けしてくださる。治療の
内容説明は良く分ったし、恐くもない。恐いのは治療内容ではなく費用の方ですよ。(笑)
「私が恐いのは費用です」と先生に言った後、『これ、確か25年前にも言ったなぁ・・』 と
思い出した。本当はここで先生に「大丈夫ですよ~」と返して欲しいのだが、25年前と
同様、返ってきたのはマスク越しの優しい笑顔だけでした。(笑)
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