今はもう離れてしまいましたが、自分の出身は東京の深川です。狭い場所に
家々がひしめき合い、隣の家には2階の窓から苦もなく移れるほど。正に近所
付き合いの出来る町でした。(笑)自宅の台所の醤油や味噌など、調味料の
保管場所は隣人の方がよく知っている・・・なんていう、ウソのようで本当の
笑い話もあります。玄関の鍵なんて掛けていなくても全く不思議ではなく、
良く言えば人間関係がしっかり形成されている世界。反面、他人との境目が
発見しずらくプライバシーの欠如という要素も含んでいたように思う。当然、
住まいの環境はそれに連動していた訳で、ごみごみと密集した住環境が日常の
風景。それは馴染んでしまえば確かに住みやすいのですが、新鮮且つ異質な
“画”を目にしてしまうと反動で強い憧れを抱くことになります。
“わんぱくフリッパー”の名前を聞いて「知ってるよ」と言う人は、私と同年
代の人だけでしょうが、少年の頃毎週楽しみにしていたテレビ番組でした。
沿岸警備隊(だったと思う)職員の父親、サンディーとバドの兄弟。それと彼
らの飼っているイルカの“フリッパー”を加えた登場人物で展開するアメリカ
のファミリードラマ。いろいろな事件の解決に少年とフリッパーの交流を絡め
たストーリー。バドの声を中村メイコさんが吹き替えていたと思う。
・・・で、少年だった私が憧れたのが彼らの住まいや生活振りです。
自宅前の桟橋から道具を海に入れ、それをギコギコするとフリッパーが「ケケ
ケケケ」って立ち泳ぎしながら現れる。まずそれが羨ましかった。(笑)
そして、冒頭のように当時下町のゴミゴミとした狭~い家で暮らしていた自分
には、バドの住環境がたまらなく素晴らしいものに映り、『こんな暮らしを
してみたい』ずっとそう思っていた。お父さんは日本風に言うと駐在所の警官
の海版?みたいな感じの人。家は海の入り江に面していて、ドアを開けると
そのまま桟橋になっている造り。船外機付きのボートが常に係留されているの
である。(まるでチャリで出かける如く)エンジンを紐掛けして始動させ、
勢い良く海に飛び出して行くバド。そばかすだらけの何てことない子どもが
とにかく『ウラヤマシイ~!』のである。おまけにお父さんが警備で使う高速
のクルーザーっぽいモーターボートもあったなぁ。
暑くなったら桟橋をタタタタッと走り、ドボンと海に飛び込めば良い。そして
疲れたら例のギコギコと音の出る機械でフリッパーを呼び、背びれに掴まって
浮遊していれば良い。しかも仲良しのイルカと一緒に事件を解決してヒーロー
にもなれる。もう少年の頭の中には空想、いや、妄想の世界が一気に拡がって
いったワケです。(笑)
あんな家に住んでみたい、バドのようにイルカと泳ぎたい、モーターボートで
遊びたい・・・。
果たして今、
イルカの代わりに犬、フリッパーならぬ正吉。耳に入る鳴き声は可愛い「ケケ
ケケケ」ではなく喧(やかま)しい「バウバウバウ」。人を乗せて移動すること
など到底できず、誘導しているのはワタシの方。自宅前には海の代わりにドブ川
の二級河川、桟橋の代わりには縁台・・・。
う~ん、でも、やっぱりこっちの方が落ち着くぞぉ。何で?(笑)
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