父さん、いったい何を緊張しているの?
自分の息子が‘黒板純’だったら、‘黒板五郎’である私を見てきっとこう
言ったに違いない。(笑)
予定どおり25~26日で、知床まで一泊の弾丸ツアーに行ってきた。
今回は長男の達也と二人連れ。目的は流氷を観ること、というよりも
流氷を観せること。とにかく観せたかったのです。そのわりには
行く前から結構緊張していて、“二人きりになったら果たして会話が
成り立つのだろうか?”とか、“ずっと気を遣って楽しめないかも?”とか、
何故か心配をしている自分がいた。
実は(声を掛けた時はもともと)誘っても達也の方が嫌がるだろうと踏んで
いたのが、躊躇なく「行く」と答えられてしまい、逆に自分の方が慌てて
しまったのです。(笑)
子供たちが成長して各人が忙しくなり、かつて恒例だった家族旅行も
数年前に途絶えてしまった。それで(今では普通の事となったが)止むを得ず
カミサンと二人っきりで旅行することになった時があって、その時も今回と
同様の心配をしている自分がいた。不思議なものです。普段は普通に会話
しているワケだし、子供が出来る前は仲良く旅行していたのに、(その時は)
二人だけの世界に入ると思うと何故か構えてしまっていた。恥ずかしいのかなぁ、
自分でもよく分かりません。
で、今回も緊張感に包まれて出発。(笑)
夏に北海道に行く時は台風に邪魔されることが多いのに、冬は逆。
前回同様に今回も「晴れ!」です。大雪山や日高山脈まで、雪をかぶった
山々が機上から綺麗に見える。ホントに美しい! 女満別空港についたのが
10時。それほど寒くない。レンタカーでウトロ(知床)に向けて走り出す。
途中、網走の街を抜けて行く時、二十四年前の新婚旅行の想い出話をした。
前日に食べた蟹のせいでカミサンが全身に「じんましん」を発症し、ここ網走の
病院の世話になったこと。その後、行く先々で自分が二人分の蟹をイヤに
なるくらい食べ続けたこと、宿泊した網走湖畔のホテルの担当仲居の名前を
何故か今でも良く覚えていて、それが「トミ子」だったことなどなど、くだらない
話で笑いまくった。達也はその頃の両親の様子に興味が湧くらしくいろいろと
訊いてくる。なので“お前のお母さんは若い頃はこういう人だった”と、目一杯
けなしてあげた。いや、いや、逆説的にホメテあげた。(笑)
網走を抜けるとオホーツク海が目に入ってくる。ところが流氷は見えない。
今年は知床側から接岸していると知ってはいたが、このポイントで見えない
流氷に少し不安がよぎる。天気はいいけれど肝心の流氷が無かったら
どうしよう・・・。けれど、斜里→ウトロと進んでも海の風景は全く変わらず。
岸に流氷はあるが、遥か拡がっているのは大海原。ちょっと残念。
それでも流氷ウォークは出来ました。混んでいたようで、予約の時間を後ろに
ずらされたが、これが良かったみたい。参加者が4人だけになってゆっくり
楽しめたし、丁度、陽が沈み始める時間帯で、夕陽を浴びた流氷は違った趣が
あってこれもまた印象的だった。マイナス1.5度の海に入って海中を覗いたり、
流氷を渡り歩いたり、1時間半くらい遊んだ。(一面の氷世界がメモリされている
自分には)流氷が物足りなくて心配したけれど、達也は十分楽しめたらしい。
常宿にしているホテルも、かつてなく良い部屋が取れてラッキーだったし、
北海道内No.1と言われる夕食バイキングも二人ともたらふく食べた。
食事中に周りを見やると我々のような組み合わせの客はおらず、自分には
それが何かスペシャルな状況に思えてちょっと誇らしくもあった。
流氷は確かに少なかったけれど連れて来た甲斐があったなぁと、とても嬉しく
感じられた。自分の気持ちは、恋人と初めての旅行をしている感じに近かった
ようにも思える。(笑)
屋外イベントを楽しみ、日が変わろうかという時間帯に揃って風呂に行った。
この旅行、自分は達也といろいろ話したいことがあり、『露天風呂に入った
時にでもじっくり・・・』と企み、楽しみにしていた。だから「一人で入ってくるよ」
なんてアッサリ言われたらどうしよう?と危ぶんでいたのだが、達也の方から
「風呂行く?」って訊いてきた時は正直ホッとした。(笑)
真っ暗なオホーツクの海を目の前にして露天風呂に並んでつかる。
家庭での達也は風呂の入り方があっさり目。あっというまに『もう出る』なんて
言われぬよう、そんな間の悪いことにだけはならぬよう、正直に言って
おきたいことだけ先に伝えた。
「達也さぁ、俺がお前の年頃だったら絶対に親父と二人で旅行になんか
行かないよ。お前はスゴイな。立派だと思うよ」
さらに、
「寒いのもキライなはずなのになんで一緒に来ようと思ったの?」
と、問うてみた。すると、ちょっと考えたようだったが間をおいて
「暇だったから・・・」
こう答えてきた。ストレートに感じてしまえば失望するコメントかもしれない。
でも、自分にはこの答えが心地よかった。自分に置き換えて想像すれば、
この知床の風呂で親父から同じことを言われたら、同様に返すだろう。
息子は父親に対して常に反発心を持ち続けているはず。そうじゃなきゃ
おかしい。そんな対象に従順な向き方を見せることはしない。だから父親も
空気のように受け止めてあげればいいのです。
「ははっ。そうだよなぁ」
そう言って終わらせた。案の定、直後に「先に出るね」と言って達也は露天
風呂を出て行った。私は一人置かれてしまい、(企てていた)「恋」の話や
将来の夢、人生観、はたまた“結婚の相手は水野美紀みたいな娘にしてね”
とか、“老後の面倒はみてね”というお願いまで、一切触れることも
できなかったがそれは野暮というもの。次回の楽しみにしておきましょ。
帰りの空港でお土産を購入した。達也は前日の行きがけに祖母から餞別を
もらっていたようで「おばあちゃんには何がいいかな?」と私に訊いてきた。
その時私は「適当なものが見当たらないから船橋に帰ってから買えば?」と
答えたのだが、後で考えるとそれはとても恥ずかしい応答だった。結局
達也のバッグの中には卓球部の部員へのお土産と共に、祖母へのお土産も
しっかり入っていたのです。当地で手に入れてこそお土産。達也は自分で
相応しいものを探して購入していた。他人に気を回せているのが感じられて
嬉しかったし、しかも、達也自身のお土産は?と探ってみたら、帰路立ち寄った
網走監獄で購入した「網走刑務所産馬鈴薯」使用の限定ポテトチップス1袋のみ。
これは知床に行く前から『絶対にゲットしたい』って言ってたやつだ。
でも、これっておやつじゃん。(笑) 他人用は分かったけど自分の分は
ホントに無くてもいいの!? やっぱり偉いよお前は。(笑)
親父は完敗!です。
話したいことの半分も満たされなかったけれど、確実に充実感を得られた
二日間。逆光で上手くは撮れていないが、お気に入りになった写真がある。
眺めるだけで楽しいし、嬉しくなる。
少なくとも自分には想い出の一枚になりました。
あの知床の夕陽は忘れられないなぁ。